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遠藤潔の活動報告
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遠藤 潔
遠藤潔の活動報告
アントニオ・グテーレス 国連事務総長
2020年03月27日
私たちは、国連の75年の歴史で経験したことのない地球規模の健康危機に直面しています。それは人的被害を広げ、グローバル経済に影響を及ぼし、人々の生活を一変させています。世界的な景気後退、それも記録的な後退が、ほぼ確実な状態となっています。
国際労働機関(ILO)は、全世界の労働者が今年末までに、3.4兆ドルもの所得を失う可能性があると報告したばかりです。これは何よりも、連帯を必要とする人類の危機だといえます。私たち人類はストレスにさらされ、社会機構は引き裂かれています。人々は苦痛と病気、不安にさいなまれています。
現状の各国レベルの対策では、この危機の地球的規模と複雑性に対処できません。今こそ、世界経済をリードする国々が協調的、決定的かつ革新的な政策的措置を講じる必要があります。私たちは、最貧層や最も脆弱な立場に置かれた人々、とりわけ女性が、最も大きな打撃を受けることを認識しなければなりません。
G20のリーダーたちは来週、COVID-19パンデミックで生じた、とてつもない課題への対応を図るため、緊急サミットの開催を決定しました。私はこれを歓迎するとともに、サミットへ参加します。(*3月26日に開催)私の中心的なメッセージは明確です。私たちは未曽有の状況下に置かれているため、普段のルールはもはや適用できません。このような異常時に、通常のツールを使うことはそもそも不可能だからです。危機の独特な性質に見合った創造的な対応が必要です。そして、危機の規模に合わせた規模の対応も行わなければなりません。私たちの世界は共通の敵と対峙しています。私たちはウイルスと戦闘状態にあるのです。
COVID-19は人々の命を奪うと同時に、貿易やサプライチェーン、ビジネス、雇用など、実体経済の核心部分に攻撃を仕掛けています。国や都市全体が封鎖状態に置かれています。国境は閉ざされています。企業は事業の存続確保に苦心し、家庭は生活を維持することに汲々としています。しかし、この危機の管理には、またとない機会もあります。これにうまく対処できれば、私たちは復興をより持続可能で包摂的な道へと誘導できます。しかし、政策の調整を怠れば、すでに持続不可能となっている不平等が固定するか、さらに悪化したり、苦心して獲得した開発の成果や貧困削減が逆戻りしたりしかねません。
私は世界のリーダーに対し、力を合わせ、このグローバル危機への緊急かつ協調的な対策を提示するよう呼びかけます。私は3つの分野で行動を起こすことが欠かせないと考えています。
第一に、健康上の緊急事態に取り組むことです。多くの国では、軽微な症例でさえ、専門の医療施設でケアできる能力を超過しており、高齢者の大きなニーズに対応できないケースも多くあります。最も豊かな国々でも、医療制度が圧力に耐えられなくなっている状況が散見されます。
人権を十分に尊重し、スティグマ(偏見や差別)のない形で検査を拡大し、施設を強化し、医療従事者を支援し、十分な物資を確保するなどして、緊急のニーズと需要の急増に対応するためには、直ちに医療費を増額しなければなりません。ウイルスの拡散は食い止められることが立証されています。また、そうせねばなりません。山火事のように、ウイルスの拡散を許してしまえば、特に世界で最も脆弱な地域で、何百万もの人々の命が奪われることになるでしょう。そして私たちは直ちに、各国がそれぞれ独自の健康対策を取る状況から、危機対応の準備が整っていない国々への支援を含め、完全に透明かつ協調的な地球規模の対応を確保する状態へと移行しなければなりません。
各国政府は、世界保健機関(WHO)の主導で進められている、多国間のウイルス対策への取り組みを最も強力に支援するとともに、WHOの呼びかけにも全面的に協力しなければなりません。今回の健康災害は、私たち全体の強さが、最も弱い医療制度の水準で決まってしまうことを明らかにしました。グローバルな連帯は単なる道義的な義務ではなく、だれにとっても利益となるのです。
第二に、私たちは社会への影響と経済的な対応、復興に重点を置かねばなりません。2008年の金融危機とは異なり、金融部門に資金を注入するだけで、問題が解決することはありません。これは銀行恐慌ではなく、むしろ銀行は実際、問題解決の一翼を担わねばならないからです。それはまた、需給に対する通常のショックでもありません。社会全体に対するショックなのです。金融システムの流動性は保証しなければならず、銀行はその強靭性を活用して、顧客を支援しなければなりません。しかし、これが本質的に、人類の危機であることを忘れないでおきましょう。
最も基本的なこととして、私たちは低賃金労働者や中小企業、最も脆弱な立場に置かれた人々を注視する必要があります。それはすなわち、賃金助成や保険、社会保障、破産と失業の防止を意味します。また、最も余裕がない人々に負担を課すことがないような財政・金融対策を策定することも必要です。貧困層を踏み台とした復興を図るべきではありません。また、新たに多数の貧困層を生むこともできません。資金を直接、人々の手に届ける必要があります。現金支給やユニバーサル・ベーシックインカムなど、社会保障の取り組みを始めた国も多くあります。インフォーマル経済に完全に依存する人々や、対応能力が限られた国にも支援が届くよう、こうした取り組みをさらに次のレベルに上げることが必要です。
特に現在、送金は開発途上地域の生命線となっています。すでに、送金手数料を現状の平均水準よりもはるかに低い3%へと引き下げた国もあります。今回の危機は、さらに一歩踏み込み、これをできるだけゼロに近づけることを求めています。さらに、G20のリーダーたちは、金利の支払いを免除することで、それぞれの国民と経済を保護する措置も講じています。私たちは同じロジックを、私たちの地球村で最も脆弱な国々にも適用し、その債務負担を軽減せねばなりません。
私たちには全面的に、困難に陥っている国を支援するため、十分な金融ファシリティの確保を約束する必要があります。国際通貨基金(IMF)や世界銀行その他の国際金融機関は、そのカギを握る役割を果たします。民間セクターは、投資機会を模索、創出し、雇用を保護するうえで欠かせません。そして私たちは、保護主義に訴えるという誘惑を断ち切らねばなりません。今こそ、貿易障壁を撤廃し、サプライチェーンを確立し直すべき時なのです。より幅広い構図を見ると、社会の混乱が根本的な影響を及ぼしています。
私たちは、この危機が女性に及ぼす影響に取り組まねばなりません。全世界の女性は家庭でも、経済全体でも、不当に大きな負担を強いられているからです。子どもたちも大きな代償を払っています。学校に通えていない子どもは現在、8億人を超えていますが、その中には、唯一の食事が学校給食である子どもも多くいます。私たちは、すべての子どもが食料を手に入れ、学ぶ機会が平等にあるようにしなければなりません。そのためにはデジタル格差を縮め、オンライン接続のコストを下げることが必要です。人々の生活が混乱し、孤立し、動転するなかで、私たちはこのパンデミックが精神衛生の危機へと発展することを防がなければなりません。そのリスクが最も高いのは若者です。界は、国連が調整役を務める人道・難民対応計画などを通じ、最も脆弱な立場にある人々に資するプログラムに対する核心的な支援を続けていく必要があります。人道面のニーズを犠牲にしてはなりません。
最後に第三点として、私たちには「よりよく復興」を遂げる責任があります。2008年の金融危機は、社会保障制度の充実した国が、被害を最小限に食い止め、その影響からいち早く立ち直れることをはっきりと実証しました。私たちは教訓を学ぶとともに、この危機を健康緊急事態に備え、21世紀に不可欠な公共サービスに投資し、グローバル公共財を効果的に届けるための重大な分岐点としなければなりません。
私たちには「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「気候変動に関するパリ協定」という行動枠組みがあります。人々と地球のために、私たちの約束を果たさなければなりません。国連とその各国事務所のグローバル・ネットワークは、世界経済と私たちが奉仕すべき人々が、この危機からさらに強くなって復興を遂げられるよう、すべての政府を支援していきます。それこそ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す「行動の10年」のロジックです。私たちはこれまでになく、連帯や希望、そしてこの危機を一緒に乗り越えるための政治的意志を必要としているのです。
■ アントニオ・グテーレス
ポルトガルの政治家。第9代国際連合事務総長。同国の首相や社会主義インターナショナル議長、国連難民高等弁務官(UNHCR)などを歴任。
国際労働機関(ILO)は、全世界の労働者が今年末までに、3.4兆ドルもの所得を失う可能性があると報告したばかりです。これは何よりも、連帯を必要とする人類の危機だといえます。私たち人類はストレスにさらされ、社会機構は引き裂かれています。人々は苦痛と病気、不安にさいなまれています。
現状の各国レベルの対策では、この危機の地球的規模と複雑性に対処できません。今こそ、世界経済をリードする国々が協調的、決定的かつ革新的な政策的措置を講じる必要があります。私たちは、最貧層や最も脆弱な立場に置かれた人々、とりわけ女性が、最も大きな打撃を受けることを認識しなければなりません。
G20のリーダーたちは来週、COVID-19パンデミックで生じた、とてつもない課題への対応を図るため、緊急サミットの開催を決定しました。私はこれを歓迎するとともに、サミットへ参加します。(*3月26日に開催)私の中心的なメッセージは明確です。私たちは未曽有の状況下に置かれているため、普段のルールはもはや適用できません。このような異常時に、通常のツールを使うことはそもそも不可能だからです。危機の独特な性質に見合った創造的な対応が必要です。そして、危機の規模に合わせた規模の対応も行わなければなりません。私たちの世界は共通の敵と対峙しています。私たちはウイルスと戦闘状態にあるのです。
COVID-19は人々の命を奪うと同時に、貿易やサプライチェーン、ビジネス、雇用など、実体経済の核心部分に攻撃を仕掛けています。国や都市全体が封鎖状態に置かれています。国境は閉ざされています。企業は事業の存続確保に苦心し、家庭は生活を維持することに汲々としています。しかし、この危機の管理には、またとない機会もあります。これにうまく対処できれば、私たちは復興をより持続可能で包摂的な道へと誘導できます。しかし、政策の調整を怠れば、すでに持続不可能となっている不平等が固定するか、さらに悪化したり、苦心して獲得した開発の成果や貧困削減が逆戻りしたりしかねません。
私は世界のリーダーに対し、力を合わせ、このグローバル危機への緊急かつ協調的な対策を提示するよう呼びかけます。私は3つの分野で行動を起こすことが欠かせないと考えています。
第一に、健康上の緊急事態に取り組むことです。多くの国では、軽微な症例でさえ、専門の医療施設でケアできる能力を超過しており、高齢者の大きなニーズに対応できないケースも多くあります。最も豊かな国々でも、医療制度が圧力に耐えられなくなっている状況が散見されます。
人権を十分に尊重し、スティグマ(偏見や差別)のない形で検査を拡大し、施設を強化し、医療従事者を支援し、十分な物資を確保するなどして、緊急のニーズと需要の急増に対応するためには、直ちに医療費を増額しなければなりません。ウイルスの拡散は食い止められることが立証されています。また、そうせねばなりません。山火事のように、ウイルスの拡散を許してしまえば、特に世界で最も脆弱な地域で、何百万もの人々の命が奪われることになるでしょう。そして私たちは直ちに、各国がそれぞれ独自の健康対策を取る状況から、危機対応の準備が整っていない国々への支援を含め、完全に透明かつ協調的な地球規模の対応を確保する状態へと移行しなければなりません。
各国政府は、世界保健機関(WHO)の主導で進められている、多国間のウイルス対策への取り組みを最も強力に支援するとともに、WHOの呼びかけにも全面的に協力しなければなりません。今回の健康災害は、私たち全体の強さが、最も弱い医療制度の水準で決まってしまうことを明らかにしました。グローバルな連帯は単なる道義的な義務ではなく、だれにとっても利益となるのです。
第二に、私たちは社会への影響と経済的な対応、復興に重点を置かねばなりません。2008年の金融危機とは異なり、金融部門に資金を注入するだけで、問題が解決することはありません。これは銀行恐慌ではなく、むしろ銀行は実際、問題解決の一翼を担わねばならないからです。それはまた、需給に対する通常のショックでもありません。社会全体に対するショックなのです。金融システムの流動性は保証しなければならず、銀行はその強靭性を活用して、顧客を支援しなければなりません。しかし、これが本質的に、人類の危機であることを忘れないでおきましょう。
最も基本的なこととして、私たちは低賃金労働者や中小企業、最も脆弱な立場に置かれた人々を注視する必要があります。それはすなわち、賃金助成や保険、社会保障、破産と失業の防止を意味します。また、最も余裕がない人々に負担を課すことがないような財政・金融対策を策定することも必要です。貧困層を踏み台とした復興を図るべきではありません。また、新たに多数の貧困層を生むこともできません。資金を直接、人々の手に届ける必要があります。現金支給やユニバーサル・ベーシックインカムなど、社会保障の取り組みを始めた国も多くあります。インフォーマル経済に完全に依存する人々や、対応能力が限られた国にも支援が届くよう、こうした取り組みをさらに次のレベルに上げることが必要です。
特に現在、送金は開発途上地域の生命線となっています。すでに、送金手数料を現状の平均水準よりもはるかに低い3%へと引き下げた国もあります。今回の危機は、さらに一歩踏み込み、これをできるだけゼロに近づけることを求めています。さらに、G20のリーダーたちは、金利の支払いを免除することで、それぞれの国民と経済を保護する措置も講じています。私たちは同じロジックを、私たちの地球村で最も脆弱な国々にも適用し、その債務負担を軽減せねばなりません。
私たちには全面的に、困難に陥っている国を支援するため、十分な金融ファシリティの確保を約束する必要があります。国際通貨基金(IMF)や世界銀行その他の国際金融機関は、そのカギを握る役割を果たします。民間セクターは、投資機会を模索、創出し、雇用を保護するうえで欠かせません。そして私たちは、保護主義に訴えるという誘惑を断ち切らねばなりません。今こそ、貿易障壁を撤廃し、サプライチェーンを確立し直すべき時なのです。より幅広い構図を見ると、社会の混乱が根本的な影響を及ぼしています。
私たちは、この危機が女性に及ぼす影響に取り組まねばなりません。全世界の女性は家庭でも、経済全体でも、不当に大きな負担を強いられているからです。子どもたちも大きな代償を払っています。学校に通えていない子どもは現在、8億人を超えていますが、その中には、唯一の食事が学校給食である子どもも多くいます。私たちは、すべての子どもが食料を手に入れ、学ぶ機会が平等にあるようにしなければなりません。そのためにはデジタル格差を縮め、オンライン接続のコストを下げることが必要です。人々の生活が混乱し、孤立し、動転するなかで、私たちはこのパンデミックが精神衛生の危機へと発展することを防がなければなりません。そのリスクが最も高いのは若者です。界は、国連が調整役を務める人道・難民対応計画などを通じ、最も脆弱な立場にある人々に資するプログラムに対する核心的な支援を続けていく必要があります。人道面のニーズを犠牲にしてはなりません。
最後に第三点として、私たちには「よりよく復興」を遂げる責任があります。2008年の金融危機は、社会保障制度の充実した国が、被害を最小限に食い止め、その影響からいち早く立ち直れることをはっきりと実証しました。私たちは教訓を学ぶとともに、この危機を健康緊急事態に備え、21世紀に不可欠な公共サービスに投資し、グローバル公共財を効果的に届けるための重大な分岐点としなければなりません。
私たちには「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「気候変動に関するパリ協定」という行動枠組みがあります。人々と地球のために、私たちの約束を果たさなければなりません。国連とその各国事務所のグローバル・ネットワークは、世界経済と私たちが奉仕すべき人々が、この危機からさらに強くなって復興を遂げられるよう、すべての政府を支援していきます。それこそ、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す「行動の10年」のロジックです。私たちはこれまでになく、連帯や希望、そしてこの危機を一緒に乗り越えるための政治的意志を必要としているのです。
■ アントニオ・グテーレス
ポルトガルの政治家。第9代国際連合事務総長。同国の首相や社会主義インターナショナル議長、国連難民高等弁務官(UNHCR)などを歴任。