本格派のトリックと社会派の素材を融合させたミステリー「高層の死角」や「人間の証明」、731部隊に迫ったノンフィクション「悪魔の飽食」などで知られる作家の森村誠一氏が24日、肺炎のため東京都内の病院で死去した。90歳。葬儀は、近親者で営む。

青山学院大文学部英米文学科卒業後、新大阪ホテル（現リーガロイヤルホテル）、ホテルニューオータニなどで10年ほどホテルマン生活を送る。勤務先のホテルを定宿にしていた作家、梶山季之らに刺激を受け、ホテルニューオータニのフロント時代に執筆したエッセー「サラリーマン悪徳セミナー」で執筆活動を始める。

69年ホテルを舞台にしたミステリー小説「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞。翌年に刊行した「新幹線殺人事件」、73年政財界の癒着に材を取った「腐蝕の構造」は、日本推理作家協会賞を受賞するなどの話題作を続々と発表した。

76年西条八十の詩「帽子」から引用した「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね？」のフレーズで有名になった「人間の証明」は、角川春樹角川書店社長率いる角川映画とのメディアミックスで映画化され大ヒットする。映画の中では、ホテルマン時代の経験を生かして、殺人事件が起きた付近のホテルのフロント役として出演もし、警察に対応するシーンを演じた。「青春の証明」、「野性の証明」とともに「証明」3部作と呼ばれた。

81年旧日本陸軍の細菌戦部隊だった731部隊について書いた「悪魔の飽食」がミリオンセラーを記録する。同部隊の存在を広く知らしめ、社会に衝撃を与えた。「続・悪魔の飽食」は収録した写真の誤用問題で揺れたが、同シリーズをもとにした合唱組曲（原詞：森村誠一、作曲：池辺晋一郎）を作って鎮魂と反戦を訴え、中国黒竜江省ハルビン市から名誉市民の称号が贈られた。

80年代からは「忠臣蔵」、「新選組」など歴史・時代小説も手がけ、11年五代将軍徳川綱吉を奇想で描いた「悪道」で、吉川英治文学賞。03年日本ミステリー文学大賞。ドラマ化された作品も多く、棟居刑事シリーズなどがある。

02年「煌く誉生」は、親交のあった遠藤寛遠藤宗家第十七代当主・辯護士が、森村氏に宛てた年賀状（P.171）を紹介している。年賀状のわずかな文言の中に、近況や生活史、所信などが表現されていて面白く、めでたいと記載されている。


■　森村誠一　
小説家・作家。ホテルを舞台にしたミステリを多く発表。69年『高層の死角』第15回江戸川乱歩賞、73年『腐蝕の構造』第26回日本推理作家協会賞、74年 『空洞の怨恨』第10回小説現代ゴールデン読者賞、76年『人間の証明』第3回角川小説賞、08年『小説道場』第10回加藤郁乎賞、11年『悪道』第45回吉川英治文学賞。